抗酸化物質による活性酸素消去に関する研究は、古く1800年代から現在に至るまで展開されています。近年は特に癌や生活習慣病の原因化学種として活性酸素種(Reactive Oxygen Species :ROS)が挙げられ、分子論と反応メカニズムの解析が進んでいます。
過去の研究から、ROS消去とは抗酸化現象、つまり、ROSへの還元的電子移動による非活性化であることが明らかとなり、その電子移動メカニズムについて研究が行われてきました。
1900年代以降、ROSの不均化反応(Dismutation)のような間接的な反応メカニズムと、抗酸化物質-ROS間の直接的な反応が存在することが知られるようになり、2000年前後には、直接的な還元的電子移動について、1電子移動(Single Electron Transfer:SET)ではなく、広義の水素原子移動(Hydrogen Atom Transfer :HAT)であることが提唱され、医学・生理学を始めとした多分野の研究により裏付けられています。
しかし、HATやSET等の直接の電子移動には高いエネルギー障壁(イオン化エネルギー)が介在することから、不均化反応が主反応機構であると考えられ、SOD活性(SuperOxide Dismutation activity)を指標とした評価が行われてきました。
他方で、HATメカニズムによるROS消去のさらに詳細な分子論的研究は続いており、近年の研究では、広義のHATに含まれる、Sequential Proton-Loss Electron Transfer (SPLET)、Proton Transfer-Electron Transfer (PT-ET)、PCETといった,プロトン移動を伴う電子移動メカニズムが効率的なROS消去を可能とすることが明らかとされています。
これらを踏まえ、現在では下記のメカニズムに関する議論が続いています。
- HAT / Hydrogen Atom Transfer
HATの定義は様々であるが、古典的にHATと呼ばれるものは、水素ラジカル移動を指し、シグマ結合の乖離を伴うため、非常に大きな結合乖離エネルギーを必要とする。 - SPLET / Sequential Proton Loss Electron Transfer
溶媒中にプロトンを放出してアニオンとなることで、電子を放出しやすくなる。一方で電子が移動した先の化学種はアニオンとなりプロトンを受けやすくなる。後に溶媒フェノール性抗酸化物質の活性酸素消去メカニズムに関する研究からプロトンを受けて、トータルで水素原子が移動したこととなる。
Álvarez-Diduk, R., Galano, A., Tan, D.X. et al. Theor. Chem. Acc. 2016, 135, 38. - PT-ET / Proton-Electron Transfer
物質間において、プロトン移動(PT)が先行し、後に電子移動(ET)が進行する反応である。
J. M. D. Marković, D. Milenković, D. Amić, M. Mojović, I. Paštia, Z. S. Markovićbd, RSC. Adv., 2014, 4, 32228. - PCET / Proton-Coupled Electron Transfer
プロトン移動と電子移動の共役移動反応。PT-ETやET-PT、HATやSPLETも広義のPCET反応といえる。分子動力学を用いた反応速度論およびエネルギー障壁に関する研究が展開されています。
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