タンパク質治療薬(抗体、インスリン、酵素補充療法などを含む)の低溶解性・低安定性の克服が,現代の創薬研究における重要な課題のひとつになっている。しかし、複雑な構造を持つタンパク質の溶解度を制御することは難しく、物理化学的溶解要因の解明と溶解補助剤の開発は、これら課題の解決に直結するキーファクターとなっている。

このような背景の下、塩による効果(塩溶・塩析)の解明が進み、簡便な溶解補助試薬として利用されるようになった。塩は、カチオンとアニオンが与える静電的作用がタンパク質の表面電荷を遮蔽して溶解度を制御し、それ以外の各作用(疎水性作用、排除体積など)よりも格段に効果が大きい。電荷数、イオン半径、モル濃度等のイオンの物性が、タンパク質表面と溶媒のクラスター構造に直接的、或いは複合的に影響すると推察されるが、複雑な相互作用の詳細な解析は難しく、多くの場合、イオン強度(モル濃度と電荷の二乗の績)を用いて熱力学(平衡論)的に取り扱われている。しかし、塩の持つ静電ポテンシャルによってタンパク質の表面電荷が完全に遮蔽されてしまうと、タンパク質の変性と凝集が進み、脱塩処理でも元の天然状態に戻らない。そのため、タンパク質の可溶化能と天然状態への再生(非可塑性)能の両者を可能とする、静電ポテンシャルを抑えた溶解補助剤の開発が望まれている。

無極性・かさ高さ(bulky)・対称性(symmetry)を有するアルキルアンモニウム塩(カチオン)が生成する電気二重層では、静電ポテンシャルに基づく試料の吸着や凝集が殆ど起こらないことを観測してきた。そして同塩のような静電ポテンシャルを抑えたカチオンとアニオンを巧みに組み合わせることで、タンパク質の局所的な変性を押さえた溶解補試薬として有用ではないか?と考え、その開発研究に取り組んでいる。

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