酸素とキノイド骨格間の協奏的PCET反応(concerted proton-coupled electron transfer: PCET)は、量子力学的にはトンネル効果(量子トンネル効果:tunnelling effect)として説明されます。
量子トンネルは、生物の効率的なエネルギー変換を実現している生体内電子伝達系に存在し、生物は、酸素を利用することで大きなエネルギーを生み出し、飛躍的な進化を遂げてきました。
一般に、酸素は電子とプロトンを受け取り最終的に水へと代謝される過程で大きなエネルギー障壁を迎えますが、障壁を超えるために投じられたエネルギーの大半は、仕事をすることなく熱として放出されます(燃す)。
生物は、このエネルギー障壁に存在する量子トンネル(反応経路の抜け道)を使い、反応エネルギーを無駄なく仕事量に変換することを得意としています。
このように“生体内電子伝達系”では、食物を“燃す”ことなく、酸素によって効率的に代謝・伝達してエネルギー源に変換しています。
この生物を模倣した酸素の利用方法を化学反応として活用することが出来れば、エネルギー問題、地球温暖化等の環境問題だけでなく、生命科学、創薬分野に至る多くの社会的課題の解決に貢献出来ると考えられます。
我々のこれまでの研究において、この量子トンネル効果はプロトンと電子の協奏的な移動の際の特徴的な軌道エネルギー変化として観測されていますが、産業利用のためには、更なる深い洞察と量子力学的解析が必要です。
また当研究と関連して、酸素とキノイド分子のPCET反応を介した量子トンネル効果を活用し、以下の実現を目指しています。
過去の関連文献
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