二つのσ軌道プロトンがπ電子移動を制御するエネルギー境界線

抗酸化ビタミンの一つであるVitamine E群は、生体内の脂質や細胞膜において健康上重要なラジカル消去機能を果たします。脂溶性の高いVitamine Eは、活性酸素消去剤として生体内の様々な脂溶性器官におけるレドックス平衡を保つだけでなく、生体内酵素反応や生化学反応においてフリーラジカルから細胞やタンパク質を守ることで、医薬品としての様々な有用性が確認されています。一方で、Vitamine E群には、不飽和度の異なるtocopherolとtocotrienol、更にメチル基の位置や数の異なる型(α-, β-, γ-, δ-tocopherol)があり、その構造―物性相関が作用の成否を制御するエネルギーの重要な境界線上にあると考えられてきました。

本研究では、α-, β-, γ-, δ-tocopherolによる活性酸素(スーパーオキサイド、ヒドロペルオキシラジカル)消去の電子移動について、実験・理論の両面から機構的に解析し、二つのσ軌道プロトンがπ軌道上の電子を協奏的に運ぶ反応メカニズム“intermolecular-electron-proton transfer”が、エネルギー効率の良い電子移動とスーパーオキサイド消去を可能にするメカニズムであることを明らかとしました。

Figure 1. 著者等が明らかとしたスーパーオキサイド消去メカニズム

今回、著者らが解析した反応は、古くから研究されてきたスーパーオキサイド消去メカニズムの中で、単独の電子移動(single electron transfer)、水素原子移動(hydrogen atom transfer)、SOD活性(スーパーオキサイド不均化酵素活性)、連続的プロトンロス電子移動(sequential-proton-loss electron transfer)のいずれよりもエネルギー効率がよく、プロトン電子共役移動反応(proton-coupled electron transfer: PCET)の一種に分類され、電子とプロトンが協奏的に移動することで進行します(Figure 1)。

この協奏的ET-PTメカニズムでは、σ軌道上の二つのプロトンがπ軌道上の電子移動を可能とし、α-, β-, γ-, δ-tocopherolのメチル基の数と位置の違いを明確に反映した反応性が解析されました(Figure 2)。量子力学と電気化学を利用して解析した当研究は、国際誌antioxidants(Jan, 2022)に掲載され、同誌トップページのハイライトに採用されました。

本研究成果のポイント
  • Vitamin E群(tocophenol)が活性酸素を最も効率良く消去するメカニズムを明らかとした。
  • 量子化学的にラジカル消去機構を解析した当研究結果は、新規医薬品や健康食品への活用が期待される。
論文情報

雑誌名:antioxidants

論文名:Electrochemical and Mechanistic Study of Reactivities of α-, β-, γ-, and δ-Tocopherol toward Electrogenerated Superoxide in N,N-Dimethylformamide through Proton-Coupled Electron Transfer

著者:Tatsushi Nakayama, Ryo Honda, Kazuo Kuwata, Shigeyuki Usui, and Bunji Uno

DOI番号:10.3390/antiox11010009

過去の関連文献

  • Reactivities of Hydroxycinnamic Acid Derivatives Involving Caffeic Acid toward Electrogenerated Superoxide in N,N-Dimethylformamide
  • Electrochemical and Mechanistic Study of Superoxide Scavenging by Pyrogallol in N,N-Dimethylformamide through Proton-Coupled Electron Transfer
  • Concerted two-proton–coupled electron transfer from catechols to superoxide via hydrogen bonds
  • Importance of Proton-Coupled Electron Transfer from Natural Phenolic Compounds in Superoxide Scavenging
  • Structural Properties of 4-Substituted Phenols Capable of Proton-Coupled Electron Transfer to Superoxide
  • Quinone–Hydroquinone π-Conjugated Redox Reaction Involving Proton-coupled Electron Transfer Plays an Important Role in Scavenging Superoxide by Polyphenolic Antioxidants

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